5億円の男?

同僚のナカヤマさん。
年は多分62・3歳で、私が今の病棟に異動になったのと同時に、ナカヤマさんも他病棟から異動してきた。
違う病棟にいたときは名前を知らなかったが、私たちの間では「武田鉄矢」で通っていた。
無論、似ているからである。
最初は口うるさいおばさんだなーと思っていたが、なぜか私には最初からやさしかった。
私に対して理解があるのである。
私が結婚をしていないことにも、追っかけで飛び回っていることにも「人生は長いし、幸せの形は人それぞれだからそれでいい」と言ってくれている。
この年代の、しかもそれほど深い付き合いでもない人が、そういうふうに言ってくれることは稀である。
私はじわじわとナカヤマさんのことが好きになった。
そうなると武田鉄矢だと思っていた顔も早見優に見えてきたりするから不思議である。
仕事ぶりもまじめで丁寧だから、単なる生真面目おばさんかと思っていたが、タバコも吸うし、酒も好きだし、休みの日には旦那さんとパチンコに行ったりもするらしく、そういう二面性も「いいなー」と思っていた。
私の職場のおばさん連中には旦那さんがいない人が多い。
生き別れだったり、死に別れだったりはあるが、女が年をとってもできる仕事だからなのか、そういう人が多いのだ。
ナカヤマさんは少数派の「旦那さんがいる人」で、一粒種の息子さんが独立した今は、旦那さんとお姑さんと3人暮らしである。
旦那さんはすでに定年退職していて、ナカヤマさんが一家の稼ぎ頭でもあるらしい。
通勤方法は旦那さんの完全送り迎えで、朝の6時からだろうが、夜勤だろうが、いつも送り迎えしてくれるそうだ。
ずっと家にいるんだからそれぐらい当たり前と言えばそうかもしれないが、一度も欠かしたことがないというのは、やっぱり優しくて家庭を大事にする人なのではないかと思う。
残念ながらまだ一度もお目にかかったことはないのだが。