昔、仲よくしていた会社の後輩がいた。
あるとき私とその子(仮にA子)を含む4人で一泊旅行に出かけたのだが、そのときのメンバーは、タバコを吸う人2人、吸わない人2人だった。
A子は吸う人で、私は吸わない人だったのだが、夜みんなで酒を飲みながら話しているときに、A子がいきなり「私今日でタバコをやめる」と言い出した。
そしてもう一人の子に「あんたも一緒にタバコをやめよう」と半ば強要し、2人は禁煙することになった。
もう一人の子は、あまりやめる気はなさそうだったが、行きがかり上そういうことになったので「まあ、やってみるか」程度のカンジだったのだと思う。
次の日、朝起きてわりかしすぐから2人は「ああ、タバコ吸いたい・・・」と言っていたのだが、お昼過ぎまでがんばっていた。
お昼の2時ごろ、昼食を食べるために入ったお店でA子はあからさまに言葉少なだったが、食べながら「もし私が今タバコを吸ったらあきれる?」と聞いてきた。
私の答えは「別に」であった。
そもそも禁煙するといったのも勢いだったし、正直言うとやめられるとは思っていなかった。
やめられるんだったらやめたほうがいいけど、無口になってイライラしているよりも、吸いたかったら吸えばいい。
私は喫煙者に対してはそういうスタンスである。
隣りでタバコを吸われたりしてもぜんぜん平気である。
(禁煙スペースだったり、喫煙マナーが悪ければ話は別だが)
結局A子は食後に「ごめん。やっぱり吸うね」と言い、付き合いだったもう一人の子も「よかったー。じゃあ私も」と2人はそろってタバコに火をつけた。
半日の禁煙だったわけである。
付き合いの子は「やっぱうまいわ」と言ってうれしそうだったが、A子は一口吸って、泣かんばかりの表情で「全然おいしくない。今、吸ったとたんクラッときた。ここを乗り越えていたらやめられたのに!」と言って灰皿にタバコを押し付けた。
そして「こんな意志の弱い自分がいやだ」と言って、持っていたタバコを一本一本全部折って灰皿に捨ててしまった。
「私のこと意志が弱くて嫌いになったでしょ」とA子は言ったが、私が嫌いなのは意志の弱さじゃなくて、彼女のそういう芝居がかった行為であった。
ホントにそう思うのなら単に捨てればいいのである。
一本一本折る必要はないのだ。
私は折れたタバコで山盛りになった灰皿を見つめながら、彼女に対して違和感を抱いていた。
それ以後、彼女はそういう数々の芝居がかった行為を積み重ねていって、あのときの灰皿のように私の心はA子へ違和感で山盛りになり、私とA子は疎遠になっていった。
山盛りになってしまう前に「嫌いなのはそこじゃない」とちゃんと言えばよかったと思う。

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