長すぎる夢?

2005年1月5日
そして、また今度も「今度こそはダメだろう」と言われながら、三度K本さんは長い夢の世界に突入していった。
K本さんの元にはいつも、子供さん夫婦と思われる人たちがお世話に来ていたのだが、私はてっきり娘さんとその旦那さんだと思っていた。
女の人の方がかいがいしくお世話をしていたし、病状を心配しているように見えたからである。
しかし実際は息子さんとそのお嫁さんであった。
元気なときのK本さんはとても気難しく、はっきり言って文句言いで、姑にはしたくないタイプの人であった。
それなのにお嫁さんはK本さんのことを心から心配していて、看護婦さんに涙ながらに病状について質問しているのを何度か見かけたことがある。
内心、きっといやな姑だっただろうに、よくできたお嫁さんだなあと思っていたのだが、そのお嫁さん本人が私に語ってくれたところによると、K本さんはとても優しいお姑さんだったそうだ。
子供は息子さん一人だけだったそうで、「本当は娘がほしかった」と言って、お嫁さんのことをそれはそれはかわいがってくれたそうだ。
そんな話を聞いて、私はもう一度元気なK本さんに逢いたいと、それまでよりもっと強く思うようになった。
お嫁さんに優しいK本さんの姿をこの目で見てみたかった。
しかし、お嫁さんの心配をよそにK本さんの状態はどんどん悪くなっていった。
寝たきりで腰に大きな褥創ができ、血流が悪くなって腕や足が腐り始めてきたのである。
体が腐ってきても、心臓が驚異的に強いらしく、おなかがパンパンに腫れ、声かけに対して追視もしなくなってしまっても、心臓だけは力強く鼓動している。
そして、5月に最後にICUに入ってから半年たった今でも、まだK本さんは長い夢の中にいるのである。
K本さん、今度の夢はちょっと長すぎですよ。
元気になったら私はまた聞きますよ。
「ICUにいたときのこと覚えてる?」
そしたらきっとこう答えてください。
「一週間ぐらいかと思ったら、半年も経ってたんだね」

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