それからさらに歩いていくと、住所表示が事前に調べていた、イチコの以前勤めていたデパートのある町を示していた。
「おっ、このへん。このへん」
ここからは今までの人生で培ってきたストーカー行為のノウハウが役立つ。
デパートの跡地はすぐに見つかった。
今は駐車場になっていて、ここにデパートが建っていた面影はない。
それから少し離れたところに寮の跡地を発見。
前は2階建ての長屋タイプの建物だったらしいが、今は近代的なビルが建っていた。
ここにも昔の面影は一切なかったらしい。
まあ、そうは言っても40数年前の話である。
「いくらなんでもそうそう面影は残ってないよ」とイチコを慰めつつ、一番期待の残るスポットであるお寺へ。
なにしろ今でもそのお寺は残っているのだから、他の2つのスポットとは違い、何かが掴めるであろう。
お寺目指して歩いていると、それまで私たちの後を言うとおりついてきて、私たちに「ここよ」と言われ、「へー、変わったね」という感想をもらすのみだったイチコが、いきなり「こっちじゃない?」とリードを取り始めた。
そしてイチコに導かれるままついて行くと、そこにお寺があった。
「ここじゃん!」
しかし、お寺まで私たちをナビゲートしてきた、肝心のイチコがどうにも腑に落ちない様子である。
周りの道とかには猛烈に覚えがあったらしいが、お寺自体が「なんか違う」カンジなのだと言う。
でもそうは言ってもお寺の名前もイチコからいつも話に聞いていた名前と一緒だし、何よりもイチコ本人がここまで連れてきたのだから間違いはない。
なんとなく納得できないカンジのイチコだったが、とりあえず記念撮影をさせると一応気が済んだようだ。
「昔はここがこんな風だった。ここでよくデートをして・・・、真ん中に大きい木があったんだけど、切ってしまったんかねぇ?」などと一通り思い出話を披露した後、「これで気が済んだ。来た甲斐があった」と言った。
けっこうしょぼい結果に終わったが、イチコのその言葉で「つれて来た甲斐があった」と思った私たち姉妹であった。

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