ステルベン?

2004年7月30日
それに、常に死に直面している医師や看護師さんたちの精神的なつらさというものも、一般病棟に移ってからは深く理解できるようになった。
誰か患者さんが急変した、または私たちが素人目に見て「もうだめだろう」と思えるような患者さんが救急車で搬送されてきたとき、医師や看護師さんたちは、本当に親身になって懸命に処置に当たっている。
それが仕事だから当たり前だと思うかもしれないが、そういうことが日々の仕事の中で頻繁に起こってくると、つい、「ああ、もうこの人はどうせやってもだめだろうな」と諦めたりする気持ちもたまにあるんじゃないかと、私なんかは思ってしまう。
しかし、看護師さんたちの毎回懸命な様子を見ていると、そんな気持ちはまったくなくて、今、目の前にいる瀕死の人をどうにか救うことしか考えていないようだ。
そうして、そのときの状態がまったく嘘みたいに、ピンピン元気に回復する人もいる。
しかし、それだけ懸命に看護に当たっても、残念なことに亡くなってしまう患者さんも、仕方がないことだがいっぱいいる。
そんなとき看護師さんたちはどんなにやるせない気持ちだろうか。
それでも気持ちを切り替えて、他の患者さんの看護に当たらないといけないから、そういうときには「亡くなった」という言葉では重すぎるのかな、とも思う。
そして職員同士で「亡くなった」という言葉を使っていると、それが患者さんの耳に届いてしまうこともあるだろう。
患者さんに対して死を連想させる言葉は、禁句中の禁句である。
そういうふうに考えると、この「ステルベン」という言葉は、単なる業界用語ではなくて、病院の中では必要な言葉なのではないかと思えるようになってきた。
そんなふうにいろいろ考えて、この言葉に対する抵抗がなくなってきた私なので、私もこんな言葉覚えましたよといわんばかりに、軽いノリで得意げに「ステった」という言葉を使う新入りの若い補助看なんかにはよけいに腹が立つ私なのであった。

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