「ハカ」と「スキ」?

2003年10月31日
3階病棟のT中さん。
水中浴のときや、夜勤のオムツ交換のときぐらいしか接することはないが、私が入ったときにはもう入院しておられた。
頭はわりかしはっきりしている(と思う)のだが、気切(喉に穴を開けている)の患者さんのため、息が漏れてはっきりしゃべることができない。
寝たきりでオムツ着用の患者さんで、奥さんがいつもかいがいしくお世話をされている。
お風呂にまでついて来て、いろいろと口を出されるので、正直スタッフサイドからすると、ちょっとうっとうしいときもなきにしもあらずなのだが、介護に対する熱意はしっかり伝わってくるので、私は奥さんのこともわりと好きである。
T中さん本人はわりと気位が高く、大便のオムツを替えるときは抵抗してたいへんである。
自分でも替えてもらわないと仕方がないということはわかっているのであろうが、それでもやりきれない気持ちなのだろう。
いつも顔を真っ赤にさせながら抵抗する。
補助看によっては実に心無い発言をしたりする者もいるので、T中さんの気持ちはとてもよくわかる。
激しく抵抗するものの、こちらがあくまでも愛情を持ってオムツ交換をすると、最後に口をパクパクさせて「ありがとう」と言ってくれるときもある。
それでも機嫌が悪いときの方が圧倒的で、オムツを替えている私の腕に、指で「ハカ」、「ハカ」と替え終わるまで何度も書いたりする。
「ハカ」というのは、おそらく「バカ」のことであろう。
私は、この「ハカ」が嫌いではない。
やっぱり「ありがとう」と言われる方がT中さんが心穏やかでいられたという点ではうれしいのだが、「ハカ」の中には生きていることの力強さが見えるようで、それはそれで私にとってはうれしいことなのだ。
ただ、他の補助看が「まあ、バカは自分じゃーね」などと言っているのが聞こえると悲しくなるが。

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