私は走った。
チケットをもぎってもらうや否や「荷物ないです」と言い捨て、荷物チェックの横をわき目もすらず駆け抜けた。
会場内に入っても一瞬たりとも立ち止まらなかった。
もう、ステージのどっち側に行くとか、そんなことはもう頭になかった。
ただステージ前のバーがたくさん見えている方へ勝手に足が動いた。
ゴールであるバーにタッチ。
ステージ向かってやや右寄りに両腕全開で広く場所を取り、そのままの状態で首がつりそうになりながらも振り向くと、ちょうどめぐが入ってくるのが見えた。
「ここ!ここ!」
めぐを真ん中寄りに招き入れ、ちょっと安心。
この幅なら後2人は入れられる。
そのうちまにあさんが来て、なんとなく私たちの後ろ辺りにいたところを、めぐがさらに真ん中寄りにさりげなく入れていた。
よし。
残りの人たちも続々と入ってきたが、最前は無理と踏んだのか、センターの方に行ってしまい、もう私の関知する範囲を超えてしまっていた。
位置的に入れてあげられるのはアネとさえちゃん。
なんとしてもこの二人だけは絶対に最前に入れなくては!
じゃないと私が一番先に入った責任が果たせない。
私は片時も両手をバーから離さなかった。
そして右の人が手を離すたびにじわじわと手の幅を広げ侵食していった。
入れてあげられるチャンスはただひとつ。
それは幕が開く瞬間である。
幕が開く瞬間、客席は中央に向けてグッと圧縮されるだろう。
その一瞬の隙を突くしかない。
幕が開き、ものすごい歓声と共に、やはりみんなが中央に押し寄せた。
ステージが気になるところだが、私はとりあえず今は真ん中に流される勢いに乗ってアネとさえちゃんを入れることだけで精一杯であった。
しかし、まだステージの方を向いてもいないのに、気持ちだけは泣きたいほど盛り上がっており、「キャア―――――ッ!!」と叫んでアネとさえちゃんを引っ張り込んだ。
これで私もできるだけのことはやった。
責任をまずまず果たしたと言っていいのではないか?
さあ、これからやっと気持ち全部でアブラーズを楽しみますよ。
目の前には尚之!ああっ、クロベエ!裕二!!トオル!!!
私は改めて叫んだ。
「キャア――――――ッ!!」

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