お盆の間はわりと4階病棟内を知らない人が歩いていることが多い。
いつも付き添われている方や、洗濯物を取りに来られる家人さんではなく、お盆で帰省された機会にお見舞いに来られるイレギュラーの方々である。
今日エレベーター前で20歳くらいのかわいい女の子を見かけた。
ホントにかわいかった。
透けるようなきれいな肌をしていて、おとなしそうだ。
その女の子はケーキが入っていると思われる箱を持っていた。
どこにお見舞いに行くんだろうな?
ケーキと言えば、お花と並んでお見舞いの品の定番のように思われがちだが、わが病棟にはケーキが食べられる患者さんというのは数えるほどしかいない。
嚥下能力の関係などで文字通り「食べられない」人もいるし、食事制限があって「食べてはいけない」人もいる。
だからそのかわいい女の子がどこにお見舞いに行ったのかはとても気になったのだが、そのときは患者さんをリハビリに連れて行く途中だったのでそのままになった。
その後も仕事に追われ、いつしかそんなことも忘れていたのだが、夕食前に経管栄養の患者さんに白湯を配っているときにA井さんの床頭台の上に、件のケーキの箱を発見した。
A井さんのお孫さんだったのか・・・。
私はなんとも言えない気持ちになった。
A井さんは、私が入ったときにはもう、すでに口からものを食べられる患者さんではなかった。
胃にチューブが繋がれており、そこに白湯や液体の栄養を点滴状に流し入れるのだ。
こちらの声かけにもまったく返答はなく、看護婦さんいわく「何にもわかってない」患者さんである。
私からすればA井さんが普通にご飯を食べたり、自分のことを自分で出来ていたということの方がちょっと想像できない。
でもあの女の子は、まだおばあちゃんが、入院しているとはいえ、ケーキを食べられるような状態だと思っていたのであろう。
和気あいあいとした雰囲気で、同室の患者さんと分け合って食べたりできるようになのか、そのケーキの箱は大ぶりなものであった。
あの女の子の心の中にいたA井さんは、いったいどんなおばあちゃんだったのだろうか。
そしてあの女の子は、いったいどんな気持ちでこのケーキを置いていったのだろうか。

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