ある日曜日のことであった。
患者さんの昼食のセッティングをしていると、ムラシタさんが走ってやってきた。
「ねぇねぇ、今エレベーターから降りてきた人見てん。ナカノさんのダンナさんやけど、ぶちキモいけえ。あのダンナねぇ、ぶちHが好きなんて。やけー、あそこ4人も子供がおるんよ」
ナカノさんというのは看護婦さんで、年は私と同い年である。
体型的にも私とよく似ているが、顔立ちは私と正反対で、目も鼻も口も全て大きく、オリエンタルなはっきりとした顔立ちをしている。
性格もはっきりしており、わりと思ったことをズバッと言う人だ。
私はナカノさんのことは「好きか?嫌いか?」と言われたら「好き」であるが、「理由は?」と言われたら「うーん、同い年やし・・・」という程度のものである。
でもナカノさんのダンナさんにはやや興味があった。
ナカノさんはわりかし自分のダンナさんの話をよくする人で、その話を総合して浮かび上がったナカノさんのダンナ像というものが私の中にあったからである。
ムラシタさんからも熱心に勧められたので、女の子の手を引き、エレベーターホールからナースの休憩所に向かおうとしているダンナさんと自然にすれ違う形になるように先回りした。
さっきチラッと後ろ姿を見たカンジではどうも小男のようだ。
それだけで私のイメージとちょっと違った。
私のイメージでは、背はあまり高くないが、がっちりとしており、屈強で怖そうな男だったというのに。
看護婦のトヨタさんに「ナカノさん今、休憩中なんですよ―」と案内され、言葉少なにトヨタさんの後をついて行っているダンナさんの顔をすれ違いざまにチラッと盗み見た。
は???
この人がナカノさんのダンナさん?
私は驚いた。そして笑った。
なんと私が今すれ違った「ナカノさんのダンナさんは、中学のときの同級生のナカノシンジだったのである。
まぁ、確かに「ナカノ」ではあるけどさー。

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