地区の運動会

今日はイチコが婦人部の役員として、賞品の仕分けや踊りの練習など準備を進めてきた地区の運動会の日である。
イチコは準備を通じて親しくなった友達が誘いに来て、いそいそと出かけていった。
「後でちょっと見に行くね」という私の言葉は耳に入っていないようだ。
美幸ちゃんも仕事に行ってしまい、完全にひとりになった私は、趣味の世界に没頭した。
私は今あるものにものすごくはまっているのだ。
時を忘れて趣味に浸っていると瞬く間にお昼になり、美幸ちゃんが帰ってきたので、最近凝っている、だしのきいた和風焼きうどんを作ってもてなした。
そして約束通り、運動会の様子をうかがいに行く。
運動会は私の通っていた小学校で行われていた。
小学校までの道のりを歩いて通るのも相当久しぶりである。
昔はぐるっとまわってあの歩道橋を渡って行かないといけなかったんだよな。この横断歩道ができたとき近くなってうれしかったな。
そんなことを思い出しながら歩いて行く。
玄関の前に花をいっぱい植えていたあの家は今でも花に溢れていた。
学校に着いてイチコを探す。
人がたくさんいてどこにいるかよくわからない。
メールを送ってみるが返事はない。
いろいろ忙しいのだろう。
校庭の脇を通っているバイパス沿いにいろいろとお店ができたりしていて、校庭から見える風景も私が通っていた頃とは全然違う。
そして運動会に興じている人の中にちらほらと、かつての同級生など、子供の頃の見知った顔ぶれがある。
そして、そういう人たちは皆、私のように娘としてではなく、子を持つ親として運動会に参加しているのであった。
普段自分の生き方に間違いはないと思っている私だが、やはりこういう場では少し気後れする。
なんとなく居心地の悪さを感じて、イチコに「見つけられなかったから帰るね」というメールを送り家に帰った。
運動会のスケジュールが押したらしく、予定よりもかなり遅い時間に帰ってきたイチコは「あー、疲れた。もういや。えらい目に合った。もー疲れた」を連発した。
私は「でも楽しかったんやろ。そんなら楽しかったって言えばいいのに」と思いそう言った。
するとイチコは意地になり「いーや、楽しいどころかただ疲れただけ。もうホントにこりごり」と反論し、やや険悪なムードになった。
しかし何かの拍子にうっかり「今日は楽しかったー」と言ってしまい慌てて私の顔を見たので、武士の情けで聞かなかったことにしてあげた。
楽しかったらそれでいいのである。