険悪号は無事小倉へとたどり着いた。
美幸ちゃんvsSAKUの戦いはなし崩しに終了した。
結局私のほうが一歩引いたのである。
ああ、悔しい。
イチコvs美幸ちゃんは冷戦なので表面上は問題ない。
しかしそれも私の立ちまわりで解決しそうで気配である。
おそらく今日中に形がつくであろう。
問題はイチコが車で小倉に来たというそれだけのことでけっこう疲れている気配なことである。
それみたことか。
駐車場から駅ビル方面に歩いて向かっているときに、ふとイチコの足元を見ると、あれだけ言ったにもかかわらず、この前買ったばっかりのミュールを履いてきていた。
しかも早くも足が痛そうだ。
そもそもこのミュールを買う時点で「絶対足が痛いよ。こっちのサンダルのほうがいいよ」と反対したのに押しきったのだ。
よく見ると甲に当たるひもが擦れるらしく、赤い水ぶくれになっていた。
だから言っただろうが。
本人にも「あれだけ言われたのに・・・」という自覚があるらしく、そんな足になっているのに「それほど痛くないよ」と強がっているのだ。
今日は自分のものは見れないと覚悟していたので、美幸ちゃんの見たいところを優先する。
美幸ちゃんが本屋など自分の趣味の場所に入ると長いのだ。
しかも本屋を見ると必ず入らなければ気がすまない。
「ちょっとここに寄るね」と美幸ちゃんが言うたび、イチコはうんざりした顔をし、私はその顔を美幸ちゃんに見せないように尽力する。
イチコもだんだん「足が・・・ちょっとね・・・」と本音を漏らし始めたので、安い靴を見繕い履きかえさせた。
イチコは素直に「んー、やっぱりこういう靴のほうが履きやすいね。来週の運動会にはこれを履いて行こう。ちょうどよかった」と言って笑った。
こういうふうに物事を前向きに考えるときのイチコはとても好きである。
それからご飯を食べて、イチコもやや息を吹き返していたものの、美幸ちゃんの怒涛の本屋めぐりには勝てず、やむを得ず別行動を取ることにした。
私が雑貨屋をめぐり、美幸ちゃんが本屋をめぐり、イチコがコーヒーショップでお茶する・・・ということが出来るイチコならば私たちの夢も広がるが、1人にされることを極端に嫌う62歳である。
仕方なくイチコと共にお茶を飲み、その間美幸ちゃんを泳がせた。
これがまた遠慮なく泳ぐのだ。
あまりの長さに途方にくれた。
美幸ちゃんは、この後で自分がイチコを引き取り、私を泳がせるつもりでいたようだが、私はそれは無理だと踏んでいた。
案の定イチコは「もう疲れたので帰りたい」とはっきり口にした。
やっぱりか、コイツ・・・。
まだ3時半である。
こんな時間に小倉を後にするなんて初めてだ。
美幸ちゃんは私に悪がっていたが、覚悟の上である。
イチコが「小倉は自分には無理」ということを悟ってくれればそれでよい。
私にとっては、充分意味のあることだったのだ。

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