M田はいつまでもいつまでも2枚の紙を見比べていたが、ふと気づいたらしく「ああ、ここ、なんでかわからないけど、タイヤ代が1本分の計算になってるんですよね」と指し示した。
やっと気づいたか。
「ね、これだとタイヤ代が1本たったの2000円の計算になってしまうんですよ」
知らんがな。
「タイヤが1本いくらなのかは知らないですけど、そっちの金額の方が正しいんだったらそれでいいです。でもね、金額訂正があったんだったら電話いただいたときにそのことを言っておいていただきたかったんですよ。たまたま余分なお金があったからいいですけど、もしちょうどしか持ってきてなかったら二度手間になってしまうでしょう」
私は噛んで含めるように言い聞かせた。
「はい、はい、はい、すいません」と聞いていたM田は、私を上目遣いに見て「あのう、じゃあ、こっちの方の金額(高い方)でよろしいですかね?」と探るように言ってきた。
だから払うっていってるだろうが!
私は別に払いたくなくてごねたわけではないのだ。失敬な!
「よろしいですかね?」って、イヤって言ったら負けてくれるんかい!?
私の逆鱗をわざわざ探してまで触れてくる男である。
金銭授受が終わるとM田はまた奥に消えた。
早くしてくれよ。まさか老眼鏡をしまいに行ったんじゃあるまいなと思っていたら、M田はボックスティッシュ5個組を手に戻ってきた。
納車のときにももらったので「この前もらいましたよ」と言うと「いえ、あの、すみません。お詫びです」といって私に差し出した。
私はすっかりM田がかわいそうになり泣けてきた。
そしてM田はステッカーを貼り、車を拭き始めた。
それもお詫びのサービスなのだろう。
今私は急いでいるのでこの場合速やかに帰らせてくれることが一番のサービスなのだが、今のM田にそれを言うのは気の毒に思え「ありがとうございます」と言っておいた。
私は、なにも悪い事をしていないつもりだが、なぜかM田に悪いことしちゃったなーと反省を促されていた。
窓拭きの途中で、M田はステッカーができるまで貼ってある仮の車検証みたいなヤツを剥がし忘れたのに気づき、「あ、これ、はがし忘れたので後ではがしちょって」といきなり甘えたので驚いた。
なーんだ。コイツ全然堪えてないぞと私はなんだかホッとした。
このM田だきゃー、と思いつつも次回もここで頼んであげようか。ホントにもう仕方ないねーとも思っている私なのだ。
いったい何が仕方ないのだろうか?
そしてこの女、車を買い換えずに2年後にまた車検を受けるつもりなのだろうか?
自分で自分がよくわからない。

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