6時になると私は更衣室で化粧を始めた。
つくづく勤務中にあるまじき姿である。
でも私はギリギリまで化粧をしたくなかったのだ。
化粧顔しか見せてない人にスッピンを見られるよりも、いつもスッピンを曝している人に化粧顔を見られるほうがずっと恥ずかしいと思う。
更衣室はクーラーがないので汗をかいてしまいあんまり化粧がのらない。
それに気を抜くとまだ涙が出るので目化粧も控えめにした。
いつもよりずいぶん薄化粧だが、それでも恥ずかしく、化粧をしてからはあまり人に逢わないように売場で安静にしていた。
6時45分になり、ザビエルに一応帰りの挨拶をした。
「もしザビエルが何か化粧のことに触れたら殺す!」と思っていたのだが、顔をまじまじと見るだけにとどまったので、私もいらぬ殺生をせずにすんだ。
会社の通用口にharuchanが車を止めて待っていてくれた。
家はサザンクロスの近くなのだから自分の車で行ったほうがライヴの後は楽なのだが、それよりもharuchanに乗せて行ってもらい、帰りも会社まで乗せてもらい、それから自宅に帰る道をえらんだ。
なぜなら通用口から自分の車までの時間(約3分程度)が節約できるからだ。
後で手間がかかろうとも、今はとりあえず1分1秒でも早くサザンクロスに着きたいのだ。
サザンクロスに向かう車の中でharuchanと
♪思い出したり〜心配してみたり〜
涙が一粒ぅ〜だけどあなたにはとどかな〜い
とヤイコになって泣いたりしていると、先に行っているちぢや、石川や、尾本さんからIGGY目撃メールが続々と寄せられた。
ブラックボトム4回目の石川はともかく、ちぢや尾本さんは外ですれ違っただけでよくわかったなと感心する。
折り返しちぢにTELするが繋がらない。
私が気持ちをMAXまで昂ぶらせまた泣いているとちぢからTELがかかってきた。
「今会場の前で生IGGY見たよ」などとIGGYを連発していたが、そのうちちぢが誰か私ではない人と話し始めた気配があり、唐突に「もしもし、SAKUちゃん?8時まではひっぱっとくから頑張ってそれまでに来てや」というYASSYの声に変わった。
「わー!YASSY!!もう大丈夫ですー。あと5分ぐらいで着くところにいますから」
突然のことで驚いたが、ちぢはもっと驚いていた。
ちぢがIGGYを連発していたのでYASSYはTELの相手を私と推測し「SAKUちゃんの友達?ちょっと替わって」と言ってきたらしい。
市役所に車を止めて小走りにサザンクロスに向かって走ると川の向こうで誰かが手を振っている。
YASSYだ!
ますます走って市役所の前の橋を渡る。
1月28日の日記に書いた、イチコがよく「飛び降りる」と言って私をおびえさせたあの橋だ。
こんなに子供の頃から慣れ親しんでいる場所に今ブラックボトムがいる。
夢みたいだという表現では安すぎると思った。

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