イリュージョン

2001年1月6日
ブラックボトムのライヴが終わり、私は日付の変わった00時20分の電車に乗って帰ることにしていたので、えらく時間が余ってしまった。
まぁ、それは最初から承知の上だったのだ。
その前のにするとライヴもそこそこに帰らなければならなくなるので仕方ないのだ。
途中で抜け出るぐらいなら寒空の下で2時間待つぐらいなんでもないのだ。
そう思った私はけっこう甘かったかもしれない。
超激サムだったのだ。
サムガラーヌの私はめったに寒いという言葉を発さない。
ちょっと寒いぐらいの方が好きなのもあるが、どんな真冬でも4枚以上着ることはまずない。
その3枚の中で厚さ等で調節する。
今日もババシャツと長Tとニットジャンパーの3枚だった。
静岡の深夜をなめていた。
行くところもないので早くから駅に行って本を読んだりしていたのだが、寒いのなんのって。
ホットの缶コーヒーを3本ぐらい買って懐にいれていたがそれでも寒い。
心の中で「こっちはこんな寒い思いまでしてきてるのに、IGGYのあの冷たい態度って何?」と八つ当たりしてしまうほどの極寒であった。
久々に寒いことが辛かった。
最初はホームで本を読みながらベンチに座っていたのだが、そのうちに座ってられなくなって立って足踏みをしていた。
あと一時間以上もあると気が遠くなりかけた頃、私ののる予定の列車が30分程度遅れているというアナウンスが入り、私は「絶望」という言葉の意味を一人かみしめていた。
そのとき私の近くに立っていた若い男の子の方から、私の顔の横あたりに何か小さいものがピンと飛んできた気配があった。
でも私はさして気にもとめずにそのままにしていた。
それがイリュージョンへのカウントダウンスタートだった。
3・2・1! ボッ!!!!
私の耳の横あたりの髪の毛に火がつきメラリと燃えた。
私は大慌てで、手で自分の髪の毛をたたきつけ消しとめた。
今までにガスコンロを覗きこんだりしてジリッと焦がしたことはあっても、燃え上がったのは初めてだったのでとても驚いた。
どうやら男の子がタバコに火をつけるべくすったマッチの頭が私の髪めがけて飛んできたようだ。
男の子は「すいません!」と叫んで私の元にすっ飛んできた。
私の髪の燃えた部分を手で触りながら「すいません。すいません。すいません」と何度も謝った。
その男の子は、推定21・2歳の、「愛読書はsmartです」といった気配を漂わせている、かなりおしゃれな男の子だった。
もし自分の髪の毛がこんなことになってしまったら彼はさぞかし大ショックなのだろう。
何度も何度も「すみません」と繰り返した。
しかし私はそういうことに全くかまわないほうなのだ。
髪が少しぐらい燃えたって全然気にならない。
「ちょっとびっくりしたけど怪我もしてないし平気なので気にしないでください」と言っても彼は謝り続け、彼ののる電車が発車するギリギリまで「すいませんでした」を繰り返した。
かわいそうなほど恐縮していた彼だが、おかげで私はしばらくのあいだ寒さを忘れていられたのであった。

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