前回ユキちゃんのうちに泊めてもらったとき(原宿に行った日である)、ユキちゃんちの最寄り駅にヒューヒュー女が出現した。
どピンクのワンピースに紺の帽子といういでたちだけでけっこうギョッとさせられるのに、その女はなんかヒューヒューいってるのだ。
といっても、桃の天然水のトモちゃんのように「ヒューヒュー」と言ってるのではなく、のどの奥で一定間隔で竜巻が巻き起こっているというカンジ。
喉から「ヒュウゥ――ッ」という音がしてるのだ。
しかもかなりの大音量で。
そして彼女は何をするでもなくただ立っていた。
体質的なものだと思い、平静を装おうとしたつもりだが、やはりかなりのインパクトだった。
そして昨日もヒューヒュー女はいたのである。
前回と同じいでたちで、同じ場所に立っている。
しかし昨日はヒューヒュー言ってなかった。
おとなしく立っているのである。
あのヒューヒューはもしかすると自分の意志で発していたのであろうか。だとしたらなぜ?
しばらく様子をうかがったが一向にヒューヒュー言い出す気配がなかったのであきらめてユキちゃんちに向かったのだ。
今日もヒューヒュー女と逢えることを密かに期待しつつ駅に向かった。
いたのである。
今日もヒューヒュー言ってなかった。
だがいでたちは全く同じで、そしてビックリするぐらい膨大な量の汗をかいていた。
やはり一筋縄ではいかない女である。
いったいここで何をしているのだろうか。
深く考えるとせつなくなるのでさらりと流して私は浅草へと向かった。浅草と私はたいへん気が合うのである。
今日は浅草に行こうと前から決めていた。
というより浅草に行こうと思ったから今日も休みをとったというほうが正しい。
何をするわけでもないが、ただぶらぶらするだけで和むのである。
特に六区あたりに強烈なシンパシーを感じる。
仲見世の舟和で美幸ちゃんのおみやげ用にいもようかんを買った。
別に空港でも売っているのだが、浅草で買いたかった。
浅草寺の境内の入口の、あまり愛想のないオヤジがやっているあげまんじゅう屋で、揚げたてのごままんじゅうをひとつ買いさっそく食べた。
食事療法をしている私にとってまんじゅうはあまり好ましくない。
しかも揚げているからなおさらよくないのだが、それでもこれは絶対に食べなくてはならない。義務だ。
そのぐらいおいしいのだ。
お参りをし、おみくじを引くと吉だった。
いいことばっかり書いてあった。
雨雲が消え去り空が澄み渡り輝くそうだ。
ウソでもこんなことを言ってもらうとうれしい。
幸せな気持ちで浅ブラを楽しみ、冬物の厚底をGETし、空港へ向かった。
いつも東京から帰るときはなんとなくさびしい気持ちになるのだが、今日はシアワセ。
そう思っていたらピッチが鳴った。
仕事を終えたユキちゃんからの「気をつけておかえり」コールだった。
働き過ぎの私の体を気遣う言葉をかけてくれて、やっぱり私は帰るのがさびしくなってしまったのだった。


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