今日の晩ご飯はカレーであった。
美幸ちゃん(姉)の作るカレーはとてもおいしい。
今日のカレーもとてもおいしかった。
おかわりまでしてしまった。
だがしかし、ここに来るまでには長く厳しい道のりがあったのだ。
もともと美幸ちゃんの作るカレーはうまかったのだが、美幸ちゃんはとても研究熱心でいろいろな工夫をする。
こういう隠し味がいいとか聞くとすぐに試す。
そして彼女は限度を知らない。
「仕上がりに一味をひとふりするとプロっぽい味になる」と聞くともちろん試す。
しかしもちろんひとふりではない。
でも、それが辛い物好きな私にはなかなかうまかった。
次からカレーを作るたびに一味の量は増えつづけ、もはや「隠し」味という範疇を大きく超えていた。
次はどこで覚えたのかキャベツを入れることを覚えた。
最初はなんだか新鮮な気がしたが、これまた大量にいれるので、キャベツの甘味が出て感じが悪いことになっていった。
次はトマトホールを入れ始めた。
これは私は最初から反対の立場をとっていたのだが、それをはっきりいうことは許されない。
美幸ちゃんはおとなしくて温厚な性格で通っているが、本当は大の「御意見無用女」なのだ。
批判はもちろんのこと、「ここをこうしたらもっと良くなる」というような「ご意見」さえ、口にしたら「わかった。そうする。もういい。」と言ってふてくされる。
そしてかならずそうしない。
なんともいいがいのない話なのだ。
だから私はこの時も「入れんほうがいいのにな」と思っていた。
言っておくが味は悪くないのだ。
このトマトホールに関しては、私の個人的な好みで嫌なのだ。
しかし、そうもいってられない事態が発生した。
やはり美幸ちゃんはエスカレートしていき、しまいにはカレーだかハヤシライスだかわからないカンジまでいってしまった。
そこに至ってもまだ、「美幸ちゃんのカレーはおいしい」というのが我が家の定説なので、美幸ちゃんはよく「今日はカレーよ」と、歓喜を促す意味として宣言していた。
私は内心「あれかぁ」と思いつつも「わーい」などと言っていた。
そしてそういうカレー変遷期を経て、最近また基本のカレーに戻ったのだ。
私のささやかな幸せが帰ってきた。
今日のカレーもとてもおいしかった。
強いていえばもう少し辛さが欲しいところだがそんなことを言ってまたヘンな隠し味に凝られても困る。
私には今夜のカレーで充分だ。

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